多細胞動物の内臓器官の配置や形は、多くの場合、遺伝的に決定された左右非対称性を示す。脊椎動物を用いた研究から、左右軸の決定機構に関しては、多くの知見が得られていたが、左右軸情報に基づいて、実際にどのような分子機構が細胞の移動や空間的配置をコントロールし、左右非対称な内臓器官の形態が形成されるかについては、ほとんど明らかにされていなかった。 申請者は、ショウジョウバエを用いた突然変異体の網羅的探索により、非筋定型ミオシンHをコードするzipper(zip)の機能が中腸前方部の左右非対称な形態形成に必須であることを同定していた。また、遺伝学的解析により、中腸上皮細胞を取り巻く環状内臓筋細胞のzip機能がその形態形成に最も必要であることも明らかとしていた。 そこで本研究では、環状内臓筋細胞においてZip活性に左右バイアスがあるか検討することを目的とした。非筋定型ミオシンIIは、ミオシン軽鎖と複合体を形成し、ミオシン軽鎖がリン酸化されることにより活性化する。リン酸化型ミオシン軽鎖を認識する抗体を用いて免疫染色により解析を行ったところ、その局在に左右バイアスは検出されなかった。さらに、GFP融合型ミオシン軽鎖を環状内臓筋で特異的に発現できる系を作り、ミオシン軽鎖の局在や動きに左右バイアスがあるか、免疫染色とタイムラプス撮影により検討を行った。しかし、両アプローチにおいてGFP融合型ミオシン軽鎖の局在や動きに左右バイアスの存在を検出することはできなかった。本研究期間中に、環状内臓筋細胞や中腸上皮細胞の前後および左右軸の両方向への動きにZip活性が必要なことを定量的な解析により明らかとしており、その事から1、前後方向の細胞運動に働くZip活性が左右非対称形成に必須であり、Zip活性自身に左右バイアスはない、2、Zip活性の左右バイアスが極小のため本研究では検出できなかった、ことが示唆された。
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