本年度の成果において最も重要なものは、マウス薪生児四肢を切断し器官培養を行うと、表皮細胞が極めて短時間のうちに切断面を覆うことが明らかになったことである。生後1日目のマウスの前肢から前腕の中央部分を切り取って10%FBS入りのDMEM培地内において培養したところ、直径約2mmの切断面は、遅くとも培養3日目には表皮によって完全に覆われ、細胞1-2層から成る傷表皮が形成されることが分かった。培養した前肢側面のintactな皮膚を構成する表皮が薄くなっていたことから、傷表皮は前肢側面の表皮細胞の大規模な増殖によって補われたというより、表皮細胞が単に移動して作られたものと考えられる。経時変化を詳細に調べると、培養開始から1日目の段階においても、切断面の中央付近にまで移動している表皮細胞が観察された。in vivoでは切断面上にfibrin clotが形成され、表皮細胞はこの中を移動しなければならないことから、数日以内に表皮化が完了することはあり得ないが、fibrin clotが形成されない培養下では両生類の四肢再生なみの速さで表皮化が完了することが分かった。上腕部側面から皮膚を一部切除した創傷部においても、同様の結果が得られた。 その一方で、形成された傷表皮が肥厚する様子は、経時変化を追っても観察できなかった。両生類の四肢再生では、傷表皮肥厚部に神経繊維が侵入する様子が観察できる。また神経が関与しない創傷治癒においても一時的に傷表皮が肥厚し、治癒と共に薄くなる。傷表皮が肥厚するかどうかの違いが両生類とマウスの再生能力を反映したものなのか、あるいは培地の浸透性に限界がある器官培養系の欠点を反映したものなのか、検討を要する。
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