研究課題/領域番号 |
21770245
|
研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
笹土 隆雄 基礎生物学研究所, バイオリソース研究室, 特別協力研究員 (90511204)
|
キーワード | 生殖細胞 / 疾患モデル / 発生生物学 / 小型魚類 / メダカ |
研究概要 |
始原生殖:細胞の移動に異常が見られる劣性胚性致死突然変異体、kamigamo、shimogamo、narutoの3系統について、一昨年度までにポジショナルクローニングによって責任遺伝子を明らかにした。kamigamo、shimogamoの責任遺伝子は、どちらもそれぞれ異なるヒト遺伝病の原因遺伝子として知られているものであった。その為にこれらの突然変異体の解析が、始原生殖細胞の移動の分子機構の解明に新たな知見を与えるのみならず、これらのヒト疾患の発症の機構を解明する基礎研究として役立てられると期待出来る。 当該年度はnaruto変異体の解析が大きく進行した。narutoの責任遺伝子は、mRNAの3'末端にポリA配列が付加される際にシグナル配列を認識する複合体を構成する因子の一つであるCP3F6/6FIm68だと分かった。そこでこれまでに始原生殖細胞の移動への関与が明らかになっているケモカインとその受容体、sdf1,cxcr7を3'RACEによって調べたところ、変異体胚では野生型よりも上流側でポリAの付加が起り、3'UTRの短いmRNAが生じていることが分かった。3'UTRは、microRNAに認識され、mRNAの安定性の制御や翻訳の制御に関わっている事が知られている。事実、sdf1の体節部における発現が変異体胚では前方に異常に長いことが分かった。従ってnaruto変異体においては、胚前方におけるsdf1の適切な消失が起らない為にその濃度勾配が失われ、始原生殖細胞の後方への移動に異常が生じていると考えられた。今後この変異体の更なる解析により、始原生殖細胞の移動におけるケモカインシグナリングの詳細な発現調節機構だけでなく、様々な遺伝子の3'UTRが生体内においてmRNAの転写後調節にどの様に関わっているのかが明らかになると期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ポジショナルクローニングの最終段階で責任遺伝子の特定に予想外の時間を要した。それは、これら3種の変異体のいずれの責任遺伝子に関しても、これまでに始原生殖細胞に限らず細胞の移動への関与が全く知られていなかったものであった為である。その為これらの変異体の解析によって、始原生殖細胞の移動に関わる新たな分子機構が現在明らかになり始めている。当該年度はnaruto変異体に関する解析が大きく進展し、その結果をまとめた論文を現在作成中である。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画に大きな変更は無く、まずnar漉o変異体の解析結果を論文として発表する。それと同時に、その責任遺伝子がヒト遺伝病の原因遺伝子として知られているものであったkamigamo, shimogamo各変異体の解析を進行させ、最終年度中に更にもう一報論文としてまとめたい。kamigamo, shimogamoの原因遺伝子が、始原生殖細胞の移動においてケモカインシグナリングに関わっているのかどうか、どの様に関わっているのかを解析する。
|