研究概要 |
細胞運命の維持は正常な発生及び恒常性に不可欠であり、それには、特定の運命に対応した遺伝子の転写状態を維持する必要がある。これまで細胞運命の維持におけるヒストンメチル化に関わる遺伝子の役割はよく調べられているが、ヒストンアセチル化が細胞運命の維持に果たす役割は分かっていない。私は最近、C.elegansアセチル化ピストン結合蛋白質BET-1とヒストンアセチル化酵素MYS-1, MYS-2が細胞運命の維持に必要な事を明らかにした。そこで本研究では、アセチル化ヒストン依存的にクロマチン状態及び遺伝子の転写状態を安定化する仕組みを明らかにする事を目的とする。 当初はChIP-sequence又はChIP on chipでBET-1のターゲット領域を同定する事を計画していたが、技術的な困難により実現は難しそうなので、現在DamIDによるBET-1ターゲット領域の網羅的な同定を試みている。これとは別に現在までに、BET-1ターゲット領域の候補として、既にmec-3遺伝子座、ceh-22遺伝子座を得ている。bet-1変異体は、細胞の運命を維持できないため、AVM神経細胞と中胚葉のdistai tip cell(DTC)の過剰形成が起こる。mec-3とceh-22はそれぞれAVMとDTCの形成に必要な転写因子であり、bet-1変異体ではこれらの遺伝子の異所的な発現が起こる事を確認している。 また、RNAi screeningでbet-1変異体の表現型を増強する遺伝子を複数得ている。このうち、ヒストンバリアントH2A.z及びその関連因子がbet-1と同じ遺伝的経路で働く事を確認している。今後は、mec-3遺伝子座、ceh-22遺伝子座のBET-1やH2A.z依存的なクロマチン状態の変化を調べていく。
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