葉緑体ゲノムには79種のタンパク質遺伝子がコードされているが、それらのコドン使用頻度と同義コドンの翻訳効率は必ずしも一致しない。本研究課題は、葉緑体遺伝子は進化の過程で、翻訳効率の異なる同義コドンを選択することによって、タンパク質コード領域の翻訳速度を大きく変化させ、タンパク質合成量の調節を行っているのでは?との仮説に基づき、葉緑体mRNAのタンパク質コード領域の翻訳速度を実験的に測定することを目的としている。 翻訳速度の測定にはタバコ葉緑体in vitro翻訳系を、またモデルmRNAとしてタバコrps2 mRNAおよびrps16 mRNAを用いた。本年度は(1) rps2およびrps16の野生型mRNAの翻訳速度の比較、(2) 野生型mRNAのタンパク質コード領域のみの翻訳速度の比較、(3) 5'非翻訳領域のみの翻訳効率の比較、を行った。まず、rps2およびrps16の野生型mRNAを翻訳させたが、rps16 mRNAの翻訳産物を検出することは困難であった。次いで、rps2とrps16の5'非翻訳領域に緑色蛍光タンパク質(GFP)のコード領域を結合させたキメラmRNAを作成し、各5'非翻訳領域の翻訳効率を比較したところ、rps16の5'非翻訳領域は翻訳活性をほとんど持たないことが明らかとなった。しかし、タンパク質コード領域のみ翻訳効率を比較するため、T7 gene10由来の5'非翻訳領域にrps2とrps16 mRNAのコード領域を結合したキメラmRNAを翻訳させたところ、rps16 mRNAのコード領域はrps2のものより3~4倍速く翻訳することが明らかになった。
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