研究概要 |
本研究課題は、生態から分子までの幅広いアプローチが可能な社会性アブラムシを対象に、兵隊または兵隊分化途中の個体で特異的(または亢進的)に発現する遺伝子群を網羅的に同定し、さらに発現・機能解析をおこなうことにより、兵隊分化および生物機能に関わる分子基盤を解明するものである。昨年度までに、ハクウンボクハナフシアブラムシの兵隊と普通個体間でcDNAサブトラクションをおこない、約500クローンの兵隊特異的発現遺伝子候補を得た(ただし、すでに論文発表されている攻撃毒カテプシンBプロテアーゼ遺伝子は除いてある)。クローン数の多かった順に整理したところ、チトクロームP450,セリンプロテアーゼインヒビター,幼若ホルモン分解酵素などに高い相同性を示す遺伝子や、既知遺伝子に相同性を示さない新規遺伝子が選別されてきたことが明らかになった。これらの遺伝子が、実際に兵隊において発現が亢進しているかどうかを調べるため、定量的RT-PCRをおこなった。その結果、調べた5つの遺伝子のうち4遺伝子において、兵隊における発現量が普通幼虫に比べて5倍から10倍程度上昇していることが明らかになった。特に、水上町から得られたコロニーにおいては、兵隊での幼若ホルモン分解酵素(JH esterase)遺伝子の発現量が普通幼虫の約500倍と顕著に高くなっていることがわかった。この結果は、幼若ホルモンによる制御が兵隊の分化または機能に関与している可能性を示唆するものである。
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