テングザルの持つ特異な社会構造である「重層社会」を再考し進化のメカニズムを解明するために、全く異なる二つの植性(マングローブ林と川辺林)に生息するテングザルの行動を観察した。川辺林に生息するテングザルの生態・社会については、申請者の先行研究によってその大部分が明らかとなっているため、本年度は、特にマングローブ林におけるデータ収集に重点をおいた。データ収集を行うための候補地を数箇所まわって、長期調査に適した場所を定めた。その後、調査準備を整えて、実際に調査地としたマングローブ林に生息するテングザルの群の生息密度、食性、移動パタンについての基礎的な情報を収集した。また同時に、テングザルの泊り場におけるハレム群間の距離を、ボートセンサスによって測定した。本データ収集はまだ未完成ではあるが、申請者が先行研究において明らかにしている川辺林のテングザルの生態・社会との予備的な比較も行った。その結果、マングローブ林のテングザルは、川辺林に比べて葉食傾向が強くその多様度も低いことがわかった。また、マングローブ林のテングザルの一日の移動距離、範囲ともに川辺林に比べて短く、狭いことが示唆された。加えて、両植性のテングザルの泊り場におけるハレム群間の距離は、マングローブ林に生息するテングザルでは、川辺林に比べてより長いことがわかり、マングローブ植性におけるハレム群間の凝集性の低さが示唆された。生息する植性環境にテングザルの食性は影響を受け、それは社会構造へも影響する可能性を見出せた。
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