テングザルの重層構造のメカニズムを解明するために、川辺林とマングローブ林という全く異なる植生に生息する本種の生態・社会を比較した。川辺林とマングローブ林のテングザルの活動時間割で顕著な違いが見られたのは、採食行動に費やす時間であった。川辺林に比べて、マングローブ林のテングザルの採食時間は、およそ2倍も長いことが明らかになった。また、植物の採食部位に関しては、両植生ともに若葉を最もよく採食するという共通点が観察された一方で、マングローブ林のテングザルの方が、より多くの時間を果実の採食に費やしていることがわかった。両植生における採食行動において、最も大きな相違点は、採食物の多様性であった。マングローブ林で、テングザルが採食した植物種数と川辺林における採食種数とでは、26倍以上も川辺林のほうが多いことがわかった。テングザルの群れ間の凝集性における解析では、川辺林のテングザルでは、食物資源量と捕食圧という2つの要因がその凝集度に影響を及ぼしていることを明らかにした。一方で、マングローブ林のテングザルでは、群れ間の凝集性には、植物資源量がより重要な要因として働いていることが示唆された。
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