本研究は、真猿類、メガネザル類、曲鼻猿類における顔面頭蓋内部の形態変異を明らかにし、眼窩の真猿化をもたらした顔面内部構造の形態進化プロセスを復元することを目的としている。京都大学霊長類研究所で、同所蔵のメガネザルや曲鼻猿類の頭蓋骨標本を高解像度CT装置を用いて撮像した。加えて、スイス・チューリッヒ大学人類学研究所のZollikofer教授らと共同で、同所蔵の曲鼻猿類標本のマイクロCT撮像をした。それら撮像により、曲鼻猿類の全科、ほとんどの属を網羅するCT画像データを得た。得られたCT画像をもとに、副鼻腔の有無やその形態変異について予備的観察を行った。ロリス類では科内でも属間で形態変異が大きい。また真猿類ではみられない偽孔が認められるものある。キツネザル類では、上顎洞の形態変異および頭蓋骨内での三次元配置に大きな属間変異が認められた。また、上顎洞をとりまく骨構成にも変異が認められる。これらの分析に加えて、三次元座標計測器(Micro Scribe MX)を導入して、上述の機関に所蔵されている真猿類、メガネザル、曲鼻猿類の頭蓋骨で、眼窩を含む外表形態を代表する標識点を設定し、量的データを収集した。予備的に幾何学的計量形態学的分析を実施し、標識点の改善を行うとともに、頭蓋骨ないでの眼窩位置の変化と周辺骨形態の変異を確認した。上顎骨の高くなると頭蓋骨内で眼窩が高くかつ内側に寄る傾向が確認された。
|