研究概要 |
本研究では,世界中から収集されたオオムギ遺伝資源を材料に,オオムギの栽培域を湿潤な東アジアに拡大させた遺伝的な適応機構について知見を得ることを目的とする. 今年度は,(1)野生オオムギを含めて世界中のオオムギの分布域をカバーするように選抜した在来品種群(約500系統)を用いて,発芽時の耐水性の評価と,(2)5つのSTSマーカー座の塩基配列解析を実施した.また,発芽に関わる農業形質のQTL解析を実施するために,(3)複数のRIL集団及びRCSL系統群のジェノタイピングを進めた.(1)の結果,'東亜型'品種群では耐水性強(発芽率>90%)と判定される系統が一定頻度存在し,これらは'西域型'品種群からは殆ど見出されない.用いた在来品種群の発芽時の耐塩性(Mano et al.1996)および深播き耐性(武田・高橋1999)のスコアを抽出し,それらの地理的部分布を調査した結果,これらは,5,000系統以上の調査から明らかになった地理的分布傾向を再現しており,これらの形質に着目した適応分化の研究に適することを確認した. 次年度は,STS座の多型データを利用して集団解析を行う.そして,発芽関わる農業形質の形質データと併せて種々の集団遺伝学解析,統計解析を実施し,集団構造と発芽に関わる農業形質との関係について詳細に検討する.同時に,(3)の連鎖地図構築を進め,発芽に関わる農業形質のQTL解析を実施し,'東亜型'品種群の分化に関わったと期待される遺伝子座の検出を目指す.さらに,平成22年度春の時点で,'東亜型'品種と'西域型'品種の交雑に由来するB2F3世代及びB3F2世代の65系統のRCSL系統群が得られる予定である.これらのグラフィカル・ジェノタイピングを進めて,導入染色体断片がゲノム全域をカバーするように系統を選抜し,QTL領域の検出と絞り込みを実施する.
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