研究概要 |
本研究では,世界中から収集されたオオムギ遺伝資源を材料に,オオムギの栽培域を湿潤な東アジアに拡大させた遺伝的な適応機構について知見を得ることを目的とする. 今年度は,栽培オオムギの多様性を代表するように選抜された標準品種(SV,n=274)を材料に,種子の耐水性(冠水処理後の発芽率)を調査し,二・六条性遺伝子の系統解析により見出された栽培オオムギの集団構造との関係について解析した.種子の耐水性評価はTakeda and Fukuyama (1987)に従った. SV全体における種子の耐水性は,0-100%と広範囲に及び,平均は50.5%であった.遺伝的な分化が明らかな東西の品種間で比較したところ,発芽率の平均は,43.3%(西方)vs.60.1%(東方)(t=5.28,p<0.001角変換値)であり,Takeda and Fukuyama(1987)の結果を再現した.東アジアに分布する耐水性強の系統群の地理的分布をより詳細に明らかにする目的で,二・六条性遺伝子の系統解析により見出された7つの分類群(Saisho et al. 2009)毎に,発芽率を比較した.中国,朝鮮半島,日本を含む極東アジアには,このうち4つの分類群(A,D,E,G)が分布する.これらの分類群毎の平均発芽率(%)はそれぞれ,36.6,50.6,70.8,54.1であった.極東アジアの品種の46.8%は分類群Eに属しており,他の分類群と比較して有意に発芽率が高かった.このことから,極東アジアの品種群が,適応的に種子の耐水性を獲得した可能性が示唆された. 現在,'東亜型'品種と'西域型'品種の交雑に由来するRCSL系統群の作成を進めている.これらのグラフィカル・ジェノタイピングを進めて,導入染色体断片がゲノム全域をカバーするように系統を選抜し,今後QTL領域の検出と絞り込みを実施する.
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