本年度は、分類学上、Rhizobium rhizogenesに属する14の日本産アグロバクテリア株を用い、植物の形質転換に利用できる菌株系列作出を試みた。第一段階として、14の野生株より内在の病原性Tiプラスミド除去を複製不和合性による方法にて実施した。結果、14の内、7の菌株では予定通りに内在のTiプラスミドを保持しないTiプラスミド除去株が作出できたが、残り7の菌株では目的の菌株は作出できなかった。そこで、不和合性とToxin-Antitoxinシステムを組み合わせた新たなTiプラスミド除去法を残り7の野生株に施した。Toxin-Antitoxinシステムとは、細菌の染色体やプラスミドの細胞内保持能力を飛躍的に向上させるメカニズムで、このシステムをコードする内在のDNA分子は細胞内で安定的に維持され、後代に安定的に遺伝される。一方、外来のDNA分子がこのシステムをコードする場合、細胞内に同じ不和合性を示す内在の分子が存在すると、これを強力に排除する。この新方法を用いることによって、残り7の菌株についても、内在のTiプラスミドを保持しないTiプラスミド除去株が作出できた。第二段階として、作出の14のTiプラスミド除去株にpTi-SAKURA-Sの導入を大腸菌からの接合伝達により試みた。これについては、当初予定通りに導入することができた。結果、当初計画の14の染色体バックグラウンドが全く異なり、且つ均質なTiプラスミドをもつアグロバクテリア菌株系列が完成した。次年度以降は、作出した菌株系列を用い、アグロバクテリアの染色体バックグラウンドの違いによる植物の形質転換能への影響を調べる予定である。
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