高等植物における雌性配偶子の発生に関わる遺伝子群や、その個々の機能、および他の分子とのネットワーク構造についてはほとんどわかっていない。本研究課題では、イネの雌性配偶子形成後期の発生に関わる遺伝子群の同定を目的とする。 本目的を遂行するために、雌性不稔個体に由来する雌ずい組織のプロテオーム(2次元電気泳動(2DE))とトランスクリプトーム(マイクロアレイ)の解析を進めた。2DE解析を行う上でサンプルの質は非常に重要であるため、先ずタンパク溶液の調整方法と最適条件の検討を行った。これにより、抽出バッファーの組成と方法やサンプル当たりに必要な組織量などの諸条件を決定した。この実験条件をもとに雌性不稔型と正常個体の雌ずいタンパク溶液の2DE像の比較を行い、シグナル量や泳動度位置に変化のある特異的なタンパクスポットを確認することができた。 トランスクリプトーム比較についてもそれぞれの胚のう組織からRNAを抽出した後、マイクロアレイ解析によりゲノム上の約4万遺伝子の発現を調べた。正常個体との比較において雌性不稔系統でmRNA発現量が顕著に上昇、減少する遺伝子をそれぞれ150程度同定した。同定したこれら約300の遺伝子の中には、雄性配偶子と比べ雌性配偶子で強く発現している遺伝子(別課題の研究結果)も複数含まれていた。本結果に加え花粉の表現型には影響がないことから、変動を示した遺伝子は雌性配偶子の発生に関わる遺伝子である可能性が推察された。
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