研究概要 |
高等植物の雌性配偶子発生に関わる遺伝子は、主に変異体を材料として解析が進められてきたが、雄性配偶子に比べるとその解析は遅れている。どのような遺伝子が関わるか、そしてその個々の機能や、他の関連遺伝子とのネットワーク構造などについてはほとんどわかっていない。本研究課題では、イネの雌性配偶子形成後期の発生に関わる遺伝子群の同定を目的とする。 本目的を遂行するために、雌性不稔系統(NIL-S)に由来する雌ずい組織のプロテオーム[2次元電気泳動(2DE)]とトランスクリプトーム(マイクロアレイ解析)の2つの解析を進めた。雌性不稔型と正常個体から雌ずい各200個X3反復分を回収、タンパクを抽出し、2次元電気泳動による比較解析を行った。 前年度に最適化を行った実験条件をもとに2DE解析を進めたが、シグナル量や泳動度位置に変化のあるタンパクスポットを2,3確認したものの、いずれも繰り返し実験による再現性は得られなかった。 RNAのトランスクリプトーム比較については、雌性不稔系統と正常個体のあそみのりに加え、稔性回復系統(NIL-F)の3種を供試し、マイクロアレイ解析による胚のう組織の発現プロファイルを取得した。3者のトランスクリプトーム比較によって、雌性不稔型vs正常型(あそみのり,稔性回復系統)で有意差を示す遺伝子群を同定した。雌性不稔型で正常型の0.5倍以下の発現量に低下する遺伝子群を、約4万2千プローブの中から283プローブ同定した。逆に、正常型の2倍以上発現量が増加する遺伝子プローブを24個同定した。同定したこれら約300プローブ、ならびに胚のう母細胞~成熟胚のう細胞のトランスクリプトーム(別課題)に観察された発現遺伝子は、イネ胚のう発生において重要な機能をもつことが示唆された。
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