研究概要 |
高等植物における雌性配偶子の発生に関わる遺伝子群や、その個々の機能、および他の分子とのネットワーク構造についてはほとんどわかっていない。本研究課題では、イネの雌性配偶子形成後期の発生に関わる遺伝子群の同定を目的とする。 本目的を遂行するために、雌性不稔個体に由来する雌ずい組織のプロテオーム(2次元電気泳動(2DE))とトランスクリプトーム(マイクロアレイ)の解析を進めた。まず、トランスクリプトーム比較では、昨年度取得したアジレント44-Kマイクロアレイ(イネ)データについて詳細な比較解析を進めた。結果として、正常個体と比較して雌性不稔系統で2倍以上の発現変化を示す遺伝子を214個同定した。214遺伝子の内訳は、雌性不稔系統で発現低下する169遺伝子と、発現上昇する45遺伝子であった。GO解析により、発現低下遺伝子群には、転写制御に関わる遺伝子が比較的多く含まれることがわかり、その中には,複数のZn-finger proteinやMyb domain proteinなどがみられた。発現低下遺伝子群の中には,雌性配偶子の退化が生じる発生ステージにおいて、発現上昇する遺伝子が含まれており、このような遺伝子群は雌性配偶子発生に関わる可能性が特に高いと考えられた。また、プロテオーム解析については、既に検討した最適条件に基づいて、雌ずいタンパク溶液の2DE像の比較を行ったが、これまでに得られた同一の特異的タンパクスポットを確認することはできなかった。電子顕微鏡を用いた胚のう細胞の詳細な形態観察を進めたところ、形態的な異常は胚のう細胞に限定的で、胚のう細胞の周辺組織(珠心細胞等)には目立った異常を示さないことを明らかにした。このことは、タンパクの比較解析を進める上で、1細胞レベルで進めることが、より好ましいことを示唆していた。
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