本研究では、相同組換え機構を使用した遺伝子ターゲッティング(GT)技術を用いて、トリプトファン(Trp)合成の鍵酵素をコードするOASA2遺伝子に酵素機能を向上させる変異を導入した系統を作出し、Trp蓄積量やその栽培特性を評価することで、飼料米や高栄養米の育種母本となる高Trp系統の選抜することを目標とする。また、従来の遺伝子過剰発現アプローチで得られた個体とGTによる遺伝子改変アプローチで得られた個体について、Trp蓄積量やその栽培特性を評価するため、GTによるOASA2遺伝子改変個体と変異型OASA2遺伝子の過剰発現個体を用いて解析を行う。 (1)遺伝子ターゲッティング(GT)によるOASA2遺伝子改変個体の作出とその評価 これまでに、遺伝解析やサザンブロット解析の結果から、内在性OASA2遺伝子を予想通りに改変した(すなわちOASA2遺伝子座においてtrueGTが生じている)系統を獲得することに成功している。そのうち、OASA2遺伝子にS126F/L530Dの変異が導入された系統#3-4、Y367Aの変異が導入された系統#5-11の完熟種子と幼植物体を用いて、Trp以外の遊離アミノ酸含量を測定した。その結果、どちらの系統においても、改変型OASA2遺伝子をホモで持つ個体は各種遊離アミノ酸含量が増加していた。特に、#3-4の改変型ホモ系統の完熟種子では、野生型の230倍ものTrpが蓄積していた。一方、Trp合成経路から派生して合成されるチロシンやフェニルアラニンをはじめ、Trp以外の遊離アミノ酸は野生型の2~10倍程度しか増加していないことが明らかとなった。このことから、OASA2遺伝子に酵素機能を向上させる変異を導入することでTrpを特異的に高蓄積させることが可能であることが示された。 (2)過剰発現アプローチとGTアプローチの比較 GTアプローチで作出した系統のうち、#3-4系統について農業特性を調査した。その結果、草丈や分けつ数など栄養生長器官の生長には大きな違いは見られなかった。
|