初年度である本年度は、まず江戸時代における農耕地雑草の多様性を明らかにするため、神奈川県逗子市池子遺跡において調査を開始した。池子遺跡では、1707年に噴出した富士宝永テフラによって埋積された水田遺構が見つかっている。この火山灰層によってパックされた水田土壌を分析することで、当時の水田雑草群落を詳細に復元することを試みた。本調査の結果、池子遺跡の近世の水田の雑草群落の多様性は非常に高かったことが明らかになった。出土した植物遺体61種のうち、出土した農耕地雑草は43種にのぼる。水田内の雑草群落は、イバラモ類やシャジクモ類などの沈水生の水生植物が優占していた。水田要素を構成する植物では、シャジクモ属の卵胞子が1099点で最も多く出土した。続いて、イバラモ科4種の種子が多く、サガミトリゲモ149点、ホッスモ148点、イトトリゲモ140点、トリゲモ/オオトリゲモ100点がそれぞれほぼ同程度で出土した。抽水生の植物では、ホタルイ近似種が131点で多く、コナギが92点で続いた。これらの種は面的に広い範囲でまんべんなく出土しており、当時の水田の主要雑草だったと言える。これらの特徴から、池子遺跡近世水田の雑草群落の特徴は、イバラモ類などの沈水生植物の多様性が高かったといえる。特にイトトリゲモやミズオオバコなどは現在は希少な種類であり、除草剤を使った近代的水田ではほとんど見られなくなった。近世当時の水田雑草の多様性が高かったことを示す重要な資料である。
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