本年度は、江戸時代の農耕地雑草の多様性についての分析結果をまとめ、現在の同規模の水田と植物種多様性を比較検討した。さらに、里山時代の農耕地雑草の多様性変化を復元するために、中池見湿原のボーリングコア試料のサンプリングを開始した。 江戸時代の農耕地雑草の多様性は、神奈川県逗子市池子遺跡の近世の水田跡の大型植物遺体分析により明らかになった。当時は、イバラモ類、シャジクモ類などの沈水生植物の多様性が高かったことが判明し、特にイトトリゲモやミズオオバコなど、現在では地域的に絶滅した希少な植物も見つかった。江戸時代には、このような水生植物の多様性が高かったことが具体的なデータで示すことができた。さらにこの結果を、現在の葉山町の谷戸田において、表層土壌に含まれる植物遺体を利用して、種数および多様度指数により比較した。その結果、水田雑草や畦畔雑草の多様性は江戸時代の方が高かったが、水田を取り囲む谷斜面の木本植物の多様性は、江戸時代よりも現在の方が高かったことが示された。これは、江戸時代では水田雑草の多様性は高かったが、周囲の森林は乱伐によるマツ林化が進行しており、木本植物の多様性が低かったと考えられる。現在の谷戸田周辺は、マツ林から照葉樹林に変化しているため、現在の方が木本植物の多様性が高かった。このことは、植物の多様性を時代ごとに評価する際には、水田だけでなく、周囲の森林植生にも注意する必要があることを示している。
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