最終年度である本年度は、江戸時代と里山時代(明治~昭和初期)の農耕地雑草について、植物考古学の手法により分析を実施し、成果をまとめた。 江戸時代における農耕地雑草の追加分析試料として、京都大学構内北白川追分町遺跡での発掘調査を実施した。ここでは、18世紀と見られる水田耕土から、イネとともにコナギ、サガミトリゲモ、イボクサ、ホタルイ属、スゲ属、イグサ属等の雑草が合計35種出土した。昨年度までに実施した神奈川県池子遺跡の分析結果と同様に、江戸時代の水田はトリゲモ類などの水生植物の多様性が高かったことを確認した。 里山時代(明治~昭和初期)における農耕地雑草の多様性についての分析は、福井県中池見湿原のボーリングコアを用いて実施した。堆積物中に含まれる種子を分析した結果、明治~昭和初期頃と考えられる水田耕土から、イネの籾殻とともに、コナギ、ホタルイ属、ハリイ属、スゲ属、カヤツリグサ属、イグサ属等の水田雑草が合計20種類含まれていることが判明した。江戸時代と比較すると雑草種子の出土種数は低かったことが示された。 これまでの江戸時代、明治~昭和初期、そして現代の農耕地雑草の多様性を比較すると、江戸時代の水田が、現代の水田や明治~昭和初期の水田よりも、雑草の多様性を高く維持しながら営まれていたことが明らかになった。さらに、江戸時代は水田雑草の多様性は高かったが、その一方で水田周囲の森林植生の多様性は低かったという興味深い分析結果も得ることができた。
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