研究概要 |
野生稲O.officinalis, O.australiensis, O.latifoliaの耐塩性について乾物生産および炭素固定速度の面から(O.rufipogon(感受性野生種)およびO.sativa L.cv.Pokkali(耐塩性栽培品種)と比較検討した.その結果,O.officinalisは耐塩性野生種のO.latifoliaと同様に高い耐塩性を有していること,また,O.officinalis, O.latifoliaの光合成速度の低下要因は,葉内の炭素固定能力の低下よりも気孔閉鎖によるところが大きいことが明らかとなった.そこで本年度は,塩ストレス環境下における野生稲の気孔の影響を取り除いた光合成速度(液相型酸素電極を用いた酸素放出速度),葉位別イオン含量およびプロリン含量について調査した. 酸素放出速度では,O.latifoliaおよびO.officinalisは,塩処理をした最上位葉展開葉で高い値を示した.クロロフィル含量は,O.officinalisで対照区よりも塩処理区で高い値を示し,O.latifoliaでは対照区に比べ3~16%減少した.葉位別の葉身Na^+含量は,O.latifoliaおよびO.officinalisは,最上位葉に比べ下位葉(第III葉)でNa^+を多く蓄積する傾向を示し,一方でPokkaliとO.rufipogonは最上位展開葉で最も高いNa含量となり,野生稲とは異なるNa+蓄積パターンを示すことが明らかとなった.プロリン含量では,O.latifoliaおよびO.officinalisは塩処理区でそれぞれ対照区の31倍および6.8倍と高い値を示した.O.latifoliaおよびO.officinalisは葉身水分含量を高く維持する系統であることから,プロリンを蓄積することにより葉身水分含量を保持することが示唆された. 以上の結果から,O.officinalisとO.latifoliaは,栽培種に比べ葉身にNa^+を蓄積するにもかかわらず酸素放出速度が増加した.このことから,電子伝達系は炭素固定系に比べ塩ストレスの影響を受けにくいと考えられる.また,塩処理により酸素放出速度の増加することで,電子伝達系が過還元状態になっている可能性がある. 今後は耐塩性野生種のO.officinalisおよびO.latifoliaの酸素放出速度がNaCl処理後に増加したこと及びNa^+を下位葉に蓄積する機構について調査する.
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