キクタニギクから単離したCsFTL3を過剰発現する形質転換体は花成非誘導条件の長日条件でも早咲き形質を示すが、長日条件で長期間育成し続けると花成が抑制される休眠状態になった。この花成抑制状態のCsFTL3過剰発現体は4週間の低温処理をすることによって、早咲き形質が回復した。このことから、キクの休眠時にはCsFTL3の機能を抑制する因子の存在が明らかになった。 CsFTL3を過剰発現する形質転換体または野生型を台木として、野生型の穂木を接ぎ木した。野生型台木と野生型穂木を接ぎ木した植物体は栄養成長を続け、花芽分化は確認されなかったが、CsFTL3過剰発現体を台木として、野生型の穂木を接ぎ木し、穂木に形成される葉を取り除くことによって、穂木の茎頂部に花序分裂組織が形成された。しかし、開花には至らなかった。このことからCsFTL3はキクにおいて花成ホルモンをコードしていることが示された。また、小花の分化、発達には花序分裂組織の分化よりも多くのCsFTL3が必要である可能性がある。 それぞれ約12時間と14時間の限界日長をもつキク品種'神馬'、'ルグラン'および、限界日長をもたない'雪舟'を実験に用いた。各品種を12時間、14時間、16時間、20時間の日長条件で栽培し、7日目に葉におけるCmFTL3の発現をリアルタイムPCR法よって調査した。'神馬'におけるCmFTL3は14時間以下の日長条件で日長の短縮により段階的に発現が上昇した。'ルグラン'におけるCmFTL3の発現量は16時間以上の日長条件では低かったが、14時間以下の日長条件では明期に高くなっていた。'雪舟'におけるCmFTL3の発現は日長条件による影響がみられなかった。 以上のことから、CmFTL3の発現上昇がキクの花芽分化を誘導する主要な要因となっており、各品種の日長反応性の違いはCmFTL3の発現誘導機構の多様性に起因する可能性がある。
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