バラ科果樹のナシを材料に、糖アルコールであるソルビトールが自発休眠の維持にどのような役割を果たしているかを解明することを目的とする。本年度はこれまでに引き続き、ニホンナシを供試して休眠ステージごとの糖の動態を調査し、休眠制御における糖の役割を検討した。その結果、ニホンナシにおいては、11月上旬から12月中旬頃にかけて枝等に蓄積されているデンプンが徐々に分解され、枝や芽に可溶性糖として蓄積されていくことが明らかとなった。また、ニホンナシでは12月下旬頃に導管液のソルビトール含量が急激に増加するが、これは枝および芽においてソルビトールトランスポーター遺伝子の発現が上昇する時期と一致していた。このことから、導管液のソルビトールの増加は、低温遭遇により徐々に枝や芽に蓄えられてきたソルビトールが、ソルビトールトランポーターを介した能動輸送により一度に導管液中に放出された結果であると考えられた。 また、自発休眠覚醒時期を変動させるため、ポット植えのニホンナシ「幸水」を供試し、11月2日から12月3日にかけ、(1)露地、(2)6℃の人工気象室で低温遭遇、(3)15℃の人工気象室で低温遭遇なし、の温度処理を行い、温度処理後は露地で自然の低温に遭遇させた。それぞれの区から様々な休眠ステージに芽および枝を採取して、炭水化物(ソルビトール、スクロース、ヘキソース)含量の変動と休眠の深浅との関連を検討した。その結果、いずれの温度処理によっても、加温しても萌芽が認められない自発休眠状態にある樹では、導管液のソルビトール含量が低いままであることが明らかとなった。
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