アントシアニン生合成における修飾反応は植物種ごとで異なり、自然界における花色の多様性を生み出している。従って、修飾反応を担う酵素遺伝子の働きを人為的に制御できれば、自然界の花色の多様性を産業上有用な花き類で再現できる。そこで、アントシアニン修飾において未だ不明な点が多い、糖転移酵素(GT)、そしてアシル基転移酵素(AT)の遺伝子の単離・解析を行うとともに、それらを用いた代謝工学により、多様な花色をデザインする基盤技術の確立を目指して研究を行った。これまでの結果より、チョウマメ青色花弁由来のアントシアニン3'5'GTを導入することで、キクの主要色素であるシアニジン3-マロニルグルコシドを配糖化した色素を合成蓄積できることを明らかにした。さらに、3'5'GTとチョウマメ由来のアントシアニン3'5'AT及びアシルグルコース合成酵素遺伝子(AGS)の3遺伝子を同時に導入した形質転換体が得られた。しかし形質転換体の花弁には、配糖化されたアントシアニンが蓄積していたが、アシル基によって修飾されたアントシアニンは合成・蓄積されていなかった。このことから、液胞内にて機能すると考えられるアントシアニン3'5'ATタンパク質が、導入されたキクの花弁において機能していないことが考えられた。従って本年度は、それを解決するためにキク形質転換体の作出を行った。液胞輸送シグナルと考えられる領域を、キクでの機能発現に適当だと考えられる配列に改変した3'5'ATと3'5'GT、AGS、さらにデルフィニジン型アントシアニンを合成するのに必要なF3'5'Hを同時に発現させるコンストラクト9種類をキクに導入した。その結果、これまでに5種類のコンストラクトで形質転換体60個体が得られた。そのうち、液胞で機能すると考えられるプロテアーゼと相同性の高い遺伝子由来のシグナル配列を用いた改変3'5'ATを導入した形質転換体で21系統が開花し、宿主や3'5'GTのみ導入した形質転換体とは異なる花色を示す個体が得られた。得られた個体の解析を今後詳細に行い、チョウマメの青色色素と同じ修飾を受けたアントシアニンがキク形質転換体において合成されているかを解析する予定である。
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