昆虫では前胸腺で生合成されたエクダイソンが分泌されることによって、脱皮変態が引き起こされる。一方で、発育の変遷過程における個々のエクジステロイドタイターの大きさは非常に異なっており、エクジステロイドの分泌時期やタイターの大きさが発生プログラムの決定に関与していると考えられる。この仮説を検証するために、ショウジョウバエの前胸腺で任意の時期にエクジステロイドを不活性化する方法の確立を試みた。 方法としては、プロゲステロン類縁体(Pr)を与えた時だけ、前胸腺でエクジステロイド不活性化酵素CYP18Aの遺伝子が発現するショウジョウバエ系統を確立し、発育を観察した。 その結果、Prを与えない場合、ショウジョウバエは成虫へと発育した。しかし、各齢期の幼虫にPrを与えると、すべての個体が脱皮あるいは変態できずに死亡した。一方で、1齢幼虫にPrとエクダイソンを同時に摂取させると3齢へと発育した。以上より、Prを摂取させた時期にCYP18Aが発現してエクジステロイドが不活性化されていることが示された。また、2齢幼虫に高濃度のPrを摂取させると、脱皮できずに死亡したが、低濃度のPrを摂取させると3齢幼虫へと脱皮せず蛹化する個体が認められた。すなわち、低濃度のPrの摂取により低レベルでCYP18Aが発現したため分泌された一部のエクジステロイドが不活性化したと考えられる。そして、タイターの低下したエクジステロイドが蛹化を引き起こしたと考えられる。これより、2齢幼虫ではエクジステロイドタイターが低下すると蛹化のプログラムが開始されることが示された。
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