カンキツグリーニング病の媒介虫ミカンキジラミは、病原細菌を体内に保毒しても必ずしも伝搬するわけではない。このような非伝搬性保毒虫の体内においても極めて高濃度の病原細菌が検出されることから、口器を通した細菌の吐き出し(伝搬)には直接関係しない中腸等の腹部消化管にも病原細菌が定着し、顕著に増殖することが強く疑われていた。そこで、保毒虫体内における病原細菌の局在部位を明らかにするために、伝搬試験によって伝搬能力の有無を個体別に確認した保毒虫について、in situハイブリダイゼーション法(ISH)による病原細菌遺伝子の原位置検出を試みた。病原細菌16SリボソームRNAに相補的に結合するジゴキシゲニン標識オリゴヌクレオチドプローブを設計し、虫体組織切片中の病原細菌を特異的に検出するISH実験系を確立した。非伝搬性保毒虫サンプルの体内において病原細菌を示す強いシグナルは、濾過室(filter chamber)や中腸といった消化管のほか、卵巣にも検出された。濾過室は、カメムシ目昆虫のヨコバイ亜目や腹吻群に特有の器官で、吸汁した植物汁液から多量の水分を後腸へバイパスさせて、アミノ酸等の栄養分を濃縮した液体を中腸へ送る働きをする。師管液とともに病原細菌を吸汁した保毒虫では、伝搬能力の有無にかかわらず、濾し取られて濃縮された病原細菌が濾過室や中腸に定着するものと考えられた。また本媒介虫では、病原細菌は保毒雌成虫から次世代へ垂直(経卵)感染しないと考えられてきたが、低率ながら垂直感染することが2010年に報告されている。消化管から卵巣への病原細菌の移行過程は不明であるが、本研究で卵巣に病原細菌が見いだされたことは、垂直感染を組織学的に裏付けるものである。
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