ネッタイイエカはウエストナイル熱やフィラリア症といった感染症の主要な媒介蚊である。私たちは2009年にシンガポールで採集したネッタイイエカ(CqSP系)を材料として抵抗性機構の解明を進めた。CqSP系の成虫は採集時すでに58倍の抵抗性を獲得していた。過去の研究で私たちは幼虫の抵抗性にはシトクロムP450であるCYP9M10が関わっていることを明らかにしているが、この酵素はCqSP系成虫の抵抗性には関与していなかった。成虫の抵抗性には幼虫と異なる機構が働いていると考えられた。そこでまず、CqSPの抵抗性レベルをさらに上げて研究に適した系統にするため、permethrinによる室内淘汰を行った。淘汰は成虫胸部背面への局所施用法により行い、各世代約1000匹を処理した。淘汰は雄269ng、雌700ngから始め、5世代行った。淘汰を重ねるに従ってCqSP系統の抵抗性レベルは上昇し、雌成虫のLD50値は採集時401ngであったのが、4世代淘汰後に2158ngに達した。これに伴い抵抗性比も313倍へと上昇した。次に、抵抗性へのシトクロムP450酸化酵素の関与を調べるために、成虫のin vitro代謝試験を行った。雌成虫より調製したミクロゾームタンパクをリン酸バッファー中で^<14>C-permethrinや補酵素NADPHとともにインキュベートし、エーテル抽出した代謝物を薄層クロマトグラフィーによって解析した。その結果、ネッタイイエカ成虫体内ではpermethrinを4'HO-permethrinに解毒していることが明らかになった。今後はこの水酸化を担っているP450分子種の同定を進める予定である。
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