植物の生育を促進する有用微生物として植物生育促進菌類(PGPF)が知られている。しかしながらその重要性にも関わらず、正確な生育促進機構はあまり知られていない。そこで本研究では、微生物による植物の生育促進機構を分子レベルで解明し、植物の健全な生育や病害からの植物保護に役立てることを目的とする。本年度は、微生物-植物の相互関係に最も重要であるPGPFの植物根への定着を検証した。まず、イソフラボノイド生産や根粒菌との共生が特徴的なマメ科のモデル植物ミヤコグサを用いて、3属菌のPGPFの生育促進効果を調査した。次に、生育促進効果の見られた菌に対するミヤコグサの応答反応を解析した。その結果、Trichoderma菌のみで顕著な生育促進効果が確認できた。Trichoderma菌は、マメ科の重要な抵抗性の一つである抗菌物質イソフラボノイドファイトアレキシンの生合成遺伝子の発現を著しく抑制してその生産を制御し、さらに菌糸の形状変化を起こし耐久体であるYeast-like cell形態をとることで長期間にわたるミヤコグサ根への定着を可能していることが明らかになった。こうして根に定着することで、植物との直接的な相互作用(栄養物質のやりとり)が可能となり、生育を促進しているものと考えられた。このようなTrichoderma菌一植物の相互関係は、菌根菌一植物の相互関係に類似しており、特にマメ科を対象としていることからも共生シグナル伝達系の関与の可能性が考えられる。次年度は、共生シグナル伝達系への関与を検証するとともに、今年度に確立したTrichoderma菌の形質転換法を用いてランダムミューテーションを行い、ミヤコグサのファイトアレキシン生合成遺伝子の発現および生産抑制できなくなった変異菌株を選抜し、解析することによって、PGPFの生育促進効果に貢献する機能を分子レベルで解明していく。
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