トリコデルマ菌は、ミヤコグサの抵抗性機構のうち最も重要であるイソフラボノイド型ファイトアレキシンの生合成経路を遺伝子レベルで制御することで根表面および根内部に侵入し、長期間に渡る根圏域への定着を可能していることを解明した。このことからトリコデルマ菌はミヤコグサの抵抗性機構に拮抗していると考えられる共生機構を活性化している可能性が考えられた。そこで今年度は、ミヤコグサの共生経路変異系統(PULLUXまたはCCaMK欠損系統)にトリコデルマ菌を接種し、ファイトアレキシン生合成遺伝子の応答反応を検証した。その結果共生経路変異系統では、ファイトアレキシン生合成遺伝子群の発現抑制は若干緩和されたが、コントロールと比較すると野生株と同様に抑制されていた。また共生経路関連遺伝子(CCamKやPollux)を単離し、そのノーザン解析を試みたが、当遺伝子の転写量が検出限界以下であったため解析不能であった。今後は、より検出感度の高いRT-PCR等を用いて共生関連遺伝子の発現誘導を明らかにし、共生シグナル伝達経路の関わりを明らかにする必要がある。 これまでに作製したトリコデルマ菌の形質転換用ベクターを用いて約50形質転換体を作製し、形質転換用ベクターがゲノムDNA上に組み込まれていることをゲノムサザン解析やゲノムPCR法により確認した。その結果、ほぼ全ての変異体ゲノム上に形質転換用ベクターが組み込まれていることが明らかになったが、ベクターの挿入パターンが3パターンほどにしかならなかったことが判明した。共生変異菌株を得るためには、トリコデルマ菌ゲノムによりランダムにベクターを挿入できる形質転換法の開発が不可欠である。
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