1. ゲノム網羅的に同定した出芽酵母の乳酸耐性遺伝子破壊株(98種)と乳酸感受性遺伝子破壊株(107種中最も強い感受性を示す22種)の乳酸ストレス条件下での細胞内pHを測定した。2. 細胞内pHの恒常性が最も亢進された破壊株グループの遺伝子機能にはプロトンやイオンの輸送に関与する輸送体の転写との関連が見られ、一方、細胞内pHの恒常性が最も低下した破壊株グループの遺伝子機能には、液胞の機能やリボソームRNAの転写と関連があることを見出した。これらの細胞機能の強化により酸耐性化の可能性が示唆された。3. 乳酸感受性遺伝子破壊株107株中57株で液胞の酸性度の低下やフラグメント化の異常を示すことを見出した。この57株のうち23株の液胞異常はこれまで報告されておらず、今回初めて見出したものである。4. 加えて、乳酸ストレスは細胞内遊離アミノ酸総量を激減させることを見出した。これより、乳酸ストレスにより起こる生育遅延の一因は、アミノ酸の欠乏によるものであることが示唆された。5. 過剰発現で乳酸耐性を付与する遺伝子として転写因子をコードするHAA1を同定しているが、既知の10種のHaa1p下流遺伝子の内、YGP1、YRO2、および機能不明の転写活性化因子をコードするYER130cの3種を破壊するとHAA1過剰発現株が示す乳酸ストレス耐性に顕著な低下が見られることを見出した。従って、これら3つの遺伝子の機能強化が乳酸ストレス耐性化に重要であることが明らかとなった。しかし、酸耐性化に貢献している他の下流因子の存在も示唆されたことから、HAA1過剰発現株と破壊株の発現プロファイルを用いた新たなHaa1p下流因子の探索を進めており、耐性化に必要な下流因子の全容が明らかとなれば、酸耐性化戦略の分子基盤に資する重要な知見になると考えている。
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