多くの細菌、カビなどは食塩、食酢と同程度の極めて高い毒性を示すシステイン(Cys)により生育阻害を受けるが、その分子機構はほとんど不明である。我々は大腸菌の非必須遺伝子欠損株ライブラリー(奈良先端大・森研究室で作製)を用いて、Cys感受性を示す菌株を選抜した結果、ペリプラズムに存在するジスルフィド(SS)結合形成酵素DsbAがCys添加時の生育に関与することを明らかにした。本研究では、培地に添加したCysがDsbAとその基質の酸化還元状態に及ぼす影響を解析し、Cysによる大腸菌の生育阻害機構を考察した。最後に得られた知見のCys発酵生産への有用性を評価した。 まず、チオール(SH)基特異的なアルキル化試薬を用いてWestern解析を行い、Cys添加時のDsbAとその基質の一つであるOstAタンパク質の酸化還元状態を確認した。その結果、DsbAがCysにより還元され、還元型DsbAが蓄積するために、基質タンパク質へのSS結合導入がうまく行われず、立体障害により異常タンパク質として蓄積することが示唆された。このことから、細胞質からペリプラズムに排出されたCysは、大腸菌のペリプラズムと細胞質間の酸化システム(DsbA-DsbB-UQ)によりシスチンに酸化されるため、ペリプラズム内に異常タンパク質が蓄積し、大腸菌の生育が阻害されるものと結論づけた。このことは本来、大腸菌は毒性の高いCysを解毒する機構を備えているとも考えられる。この類似した仕組みは、酵母、植物、動物などの真核細胞の小胞体にも広く存在するため、小胞体と細胞質とのレッドクス制御にCys排出トランスポーターが重要な役割を果たしている可能性が示唆された。 従来のCys生産菌にDsbAを過剰発現することでCysを積極的にシスチンに変換することが可能となり、Cys発酵生産に有効であることが示された。
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