硫黄(S)は細胞内においてタンパク質中の含硫アミノ酸(システイン・メチオニン)以外に、グルタチオン、コンドロイチン硫酸などの形で多量に存在している。これら以外にも、チアミン、ビオチン、リポ酸、鉄-硫黄クラスター、モリブドプテリンなどの補因子や、tRNAに含まれるチオウリジンなどの核酸塩基にも硫黄原子が含まれている。これらの補因子等の生体分子に存在する硫黄原子は極めて反応性が高く、アルデヒド基やカルボキシル基の転移反応や電子およびプロトンの授受に際して重要な役割を担っている。また、チオウリジンは翻訳時のコドン認識に深く関与しており生理的に重要な役割を担っている。本研究課題では、このような高い生理機能を有する含硫化合物の生合成機構の解明を目的としている。 平成22年度は、L-[^<35>S]システインをトレーサーとして活性型硫黄であるペルスルフィドを保持する能力を有するタンパク質の網羅的な同定に注力した。無細胞抽出液に含まれるタンパク質のうち[^<35>S]により標識されるタンパク質をSDS-PAGE後のオートラジオグラフィーにて解析した結果、特異的な標識を示唆するバンドが複数見いだされた。これらの一次構造解析をプロテインシークエンサーにて進めている。この同定されたタンパク質については、ゲノム配列情報をもとに遺伝子全長に関する情報を取得するとともに、大量発現系の構築を行っている。得られた精製標品を用いて、in vitroでシステインデスルフラーゼとの相互作用および硫黄原子授受の有無を確認したところ、期待された通り硫黄原子の授受が認められた。引き続き経時的な硫黄の移動を解析することとし、同タンパク質をコードする遺伝子を破壊して、生育速度や栄養要求性など表現型に与える影響を詳細に解析し生理的な機能の解明を試みる。
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