研究課題
酵母ミトコンドリアは酸素呼吸のための細胞内小器官であるため、酸素呼吸の起こらない清酒醸造において、酵母ミトコンドリアはその役割を顧みられてこなかった。しかしながら、我々は清酒醸造の最後まで酵母ミトコンドリアが存在し、清酒醸造中の物質代謝に積極的な役割を持つことを明らかにしてきた。ミトコンドリアは元々は寄生生物であるため、その外側に多くの物質の取り込み輸送体を発現させている。そこでこれらの輸送体を清酒酵母で29個遺伝子破壊もしくは22個の遺伝子を高発現させ、それらの株で清酒を醸造して物質組成を解析した。その結果、多くの有機酸やアミノ酸で統計的に有意な差が観察され、これらのミトコンドリア輸送体が清酒醸造中でも物質代謝に積極的な役割を持つことが明らかになった。そこで、ピルビン酸のミトコンドリアへの輸送をターゲットとして清酒酵母の育種を行った。すなわち、ピルビン酸のミトコンドリアへの輸送阻害剤ethylα-transcyanocinnamateへの耐性株を取得し清酒を独立して6連で実験室スケールで醸造したところ、ピルビン酸が統計的に有意に低減しており、ピルビン酸の低減酵母の育種に成功した。この育種した清酒酵母を使って実際の清酒醸造蔵で清酒を醸造したところ、総米1トンの工場スケールで、エタノール生成能の減耗を伴わずにピルビン酸及びオフフレーバーであるジアセチルの前駆体であるα-アセト乳酸が顕著に低減していることがわかった。このことから、工場スケールでエタノール生産能の減耗を伴わずにピルビン酸の低減を可能にする初めての清酒酵母の育種に成功した。
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