抗真菌薬として用いられているエキノカンジン群物質は、6つの異形アミノ酸の環状ペプチドに1つの脂肪酸側鎖が付加した構造であり、構造特徴から、NRPS(非リボソームペプチド生合成酵素)によって生合成されると考えられるが、その詳細は不明である。これまでの研究においてエキノカンジン群物質の1つであるFR901379を生産する糸状菌Coleophoma empetri-11899のアグロバクテリウム形質転換法によるT-DNA挿入変異解析と次世代シーケンスによるドラフトゲノム解析によって生合成関連遺伝子群を見いだすことに成功した。しかしながら、その生合成関連遺伝子群がコードされているクラスター領域は非常に大きく、機能未知の遺伝子や酸化還元酵素の遺伝子の数が多いことなどから、FR901379生産菌のゲノム配列情報だけからでは生合成経路や反応の単純な推定は困難であった。また、複数の生合成遺伝子の相同組換えによる遺伝子破壊株の取得と証明を試みたが、残念ながら得ることが出来なかった。 そこで、他のエキノカンジン群物質を生産する複数の糸状菌のゲノムを次世代シーケンスにより解析し、先に見いだしたFR901379生合成関連遺伝子の塩基配列情報を基に推定される遺伝子群を見いだし、それらを比較することで生合成に関わる複数の遺伝子群の絞り込みを行った。その結果、保存される一連の生合成関連遺伝子の組み合わせを絞り込むことが出来た。現在、相同組換えによる遺伝子破壊株が得られ易い生産菌に対して、これらの遺伝子の情報を基にエキノカンジン群物質の生合成機構の推定と証明を試みている。
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