医薬的に重要なイソキノリンアルカロイド(モルヒネやコデイン)は、植物の産生する二次代謝産物であり、L-tyrosineから生合成される。これまでに微生物のモノアミン酸化酵素と植物のイソキノリンアルカロイド生合成酵素を組み合わせ、dopamineを基質にして、イソキノリンアルカロイドの重要な中間体であるreticuline、さらには抗HIV作用および抗腫瘍作用を有するmagnoflorineの微生物発現系における生産に成功している。昨年度は、L-tyrosine生産大腸菌を作製し、L-tyrosineからdopamineまでの生合成経路を導入することで、dopamine添加を必要としない、微生物発酵法によるアルカロイド生産システムを構築した。本生産システムは、15g/Lのグリセロールから最大で6mg/Lのreticulineを培地中に生産した。今年度は、さらなる生産効率の改善を目的として、生合成経路の最適化を行った。 生合成経路における律速段階を明らかにするため、生成物の解析を行った。LC-MS/MS解析の結果、最終産物であるreticulineだけでなく、dopaquinoneの蓄積が見られた。TyrosinaseはL-tyrosineからL-DOPAへの変換を触媒するだけでなく、さらにL-DOPAをdopaquinoneへと変換する。そこで、L-DOPAからdopaquinoneへの酸化活性の低いRalstonia solanacearum由来tyrosinaseを生産システムに用いることにした。その結果、15g/Lのグリセロールから、46mg/Lのreticuline生産に成功した。本生産システムを用いることで、植物アルカロイドの実用生産が可能になると考えられる。
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