本研究では、植物遺体食性土壌動物の排泄物をモデルとして、土壌の機能に重要な土壌有機物の生成や分解に関わる微生物とその生態系の解明を目指す。本年度は、植物遺体食性土壌動物の選別と飼育方法の確立及び排泄物の効率的な分離回収方法などについて検討した。理化学研究所構内及びその周辺地域にて採取したArmadillidium vulgare(オカダンゴムシ)、Reticulitermes speratus(ヤマトシロアリ)、Oxidus gracilis(ヤケヤスデ)について、実験室内での飼育と排泄物の回収方法を検討した。主にコナラ落葉を飼料として飼育し、これらの排泄物を観察した結果、R. speratus及びO. gracilisの排泄物は半固形状で、飼料との分離が困難であると考えられたが、A. vulgare排泄物は比較的乾燥した顆粒状であり、分離回収が容易であった。種々のA. vulgare排泄物の分離回収方法を検討し、1.2mmメッシュのザルとステンレスボウルを組み合わせた容器に飼料とA. vulgare飼育固体を投入して一晩静置し、ザル落下物より目視にて排泄物顆粒を選別する方法を確立した。続いて、排泄物顆粒の微生物生態系解析のための条件検討として、排泄物顆粒からPCRの鋳型として使用しうるDNAの単離方法を検討した。粉砕された落葉断片を含むA. vulgare排泄物より単離したDNAは、茶褐色でPCR阻害効果が認められた。そこで、ニッポンジーン社のISOIL for Beads Beatingを用いたところ、DNA溶液の褐変も見られず、PCRの鋳型として直接利用できることが確認された。細菌の16S rRNA遺伝子増幅プライマーセットによるPCR産物のクローンライブラリーを作製し、一部の塩基配列を解析したところ、各種細菌の配列と共に、A. vulgare中腸腺細胞内共生細菌に由来することが強く示唆される細菌のDNA塩基配列が多数検出された。来年度はA. vulgare排泄物の細菌叢の解析を、T-RFLPの手法により検討する予定である。また、A. vulgare以外の土壌動物排泄物の微生物生態系解析や、排泄物からの微生物の分離培養解析も進めていく。
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