研究概要 |
本研究では、植物遺体食性土壌動物の排泄物における微生物生態系の解析を通して、土壌動物を介した枯死植物分解から土壌有機物の生成・分解に関わりうる微生物生態系の解明を目指す。本年度はArmadillidium vulgare(オカダンゴムシ)について、排泄物細菌叢の解析を行った。昨年度に引き続き排泄物回収方法について検討を加え、最終的にA.vulgareの行動様式の特性(コンクリート製ブロック上に密に集合する)に着目することで排泄物の効率的な回収方法を確立した。すなわち、表面がある程度研磨されたコンクリート製ブロックを、土壌を敷き詰めた飼育容器内に設置し、A.vulgare個体(100匹)及び飼料としてサクラ落葉を容器内に投入して35日間暗所にて飼育した。その間、コンクリートブロック上の排泄物を10回に渡り回収し、目視で排泄物以外のものを除去後にISOIL for Beads BeatingにてDNAを単離した。それらを鋳型として、細菌の16S rRNA遺伝子プライマー27F(FAMラベル)及び910RにてPCR増幅し、制限酵素(AluI, HhaI)消化後にABI 3130xlシステムによるフラグメント解析に供した。同時にPCR産物のクローンライブラリーを塩基配列解析し、T-RFLP検出ピークと推定される配列について同一実験系にてT-RFLP解析を行い、各ピークの由来生物種の推定を行った。10検体の解析において、AluIでは34の、HhaIでは37の有意なピークを検出した。検出ピークは検体間でばらつきが見られたが、主要ピークの存在比率は二種の制限酵素における結果の間に高い類似性が認められた。全10検体に共通して存在していたピークが2つ認められ、それぞれCandidatus Hepatoplasma関連細菌またはStreptomyces属細菌と推定された。他に複数検体で検出された有意なピークとして、Enterobacter、Pantoea/Erwinia、陸生甲殻類共生Rickettsiella様細菌等について由来生物属名が推定できた。全検体においてA. vulgare中腸腺共生細菌と推定されるCandidatus Hepatoplasmaが検出されたことから、同細菌が排泄物を介して他の個体へと水平伝播している可能性が示唆された。また、γ-Proteobacteriaに分類される腸内細菌群が排泄物中に著量存在していたことから、これら細菌群の排泄物における代謝や機能に興味が持たれた。
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