研究課題/領域番号 |
21780084
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
飯田 敏也 独立行政法人理化学研究所, 微生物材料開発室, 専任研究員 (30321722)
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キーワード | 土壌動物 / 土壌細菌 / 細菌群集解析 / 高速シーケンサー / Armadillidium vulgare |
研究概要 |
本研究では、植物遺体食性土壌動物の排泄物における微生物生態系の解析を通して、土壌動物を介した枯死植物分解から土壌有機物の生成・分解に関わりうる微生物生態系の解明を目指す。昨年度までに実施した、T-RFLPによるリター摂食Armadillidium vulgare(オカダンゴムシ)排泄物(以下Avf)の細菌群集解析により、細菌群集構造の概要を捉えることができた。本年度は、より詳細な細菌群集構造の解明を目指し、高速シーケンサーGS Junior(Roche)を用いた解析を試みた。細菌の16SrRNA遺伝子の可変領域3~5付近を増幅するPCRプライマーによる増幅産物を、3'側から塩基配列解析した。解析検体は以下のように調製した。A.vulgare約200匹を採集し、表面付着物をすすぎ落としたサクラ落葉と、コンクリート製ブロックをセットした飼育容器内に投入して、25日間飼育した。その間10回にわたりブロック上に排出されたAvfを全量採取し、飼育終了後の飼育容器内の土壌及び落葉と共に、DNAを単離した。飼育開始後11日目及び25日目のAvf、落葉及び土壌の4検体を鋳型としたPCR増幅産物を、シーケンス解析に供した。Mothurによる解析で、69977配列から2490個のOTU(3%の差異に基づく)を得た。各検体のOTU数は、落葉及び土壌の1240、1539に対しAvfは270前後と小さく、また各種統計解析の値から、Avfの細菌の多様性は落葉及び土壌と比較して低いことが示された。各検体における分類群毎の細菌の存在比は、Avfではγ-及びα-ProteobacteriaやMollicutesが優勢化していた一方で、落葉で大きな割合を占めていたSphingobacteriiaやβ-Proteobacteriaは低下していた。土壌で優勢化していたAcidobacteriaの配列は、Avfではほぼ未検出であった。これらの結果から、A.vulgareの摂食により落葉上の細菌は消化されるが、生残した細菌のうち後腸後部の環境に適応できる菌種が増殖後に排泄されていることが示唆された。また、Avf検体において、陸生甲殻類の中腸腺共生細菌に由来すると思われる配列(Ca.Hepatoplasma及びCa.Hepatincola)が34-43%と大きな存在比を示し、これらの伝播に糞食の関与が示唆された。今後、Avfの細菌群集の経時的な変動を解析し、Avf中の有機物分解を通して土壌動物に関与する土壌細菌群の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における大きな目標の一つであった、A.vulgare排泄物(Avf)の細菌群集構造の解明について、昨年度まで様々な試行錯誤を経たが、本年度新たに試みた高速シーケンサーを用いた細菌群集解析により、データ精度を飛躍的に向上させることができた。また、Avfを分離源とした細菌の分離培養の結果、Avf中で優勢化するγ-ProteobacteriaやAcidobacteria等を含む、多くの菌株を分離している。しかし、腐植化関連活性と考えているラッカーゼ活性を保有する細菌株のAvfからの分離について、これまでの試みは成功していない。今回明らかになったAvfの細菌群集解析結果から、Avfの細菌群集は落葉や土壌と比べて多様性が低下していることが示されたことから、分離源とするAvfに何らかの前処理が必要と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究における重要課題であるA.vulgare排泄物(Avf)の細菌群集構造の解明について、本年度に確立した高速シーケンサーによる高精度な細菌群集解析の手法により、今後土壌環境におけるAvf細菌群集の経時的な変動を解析し、Avfにおける有機物分解等に関与する細菌群についての知見を得る。また、もう一つの課題であるAvfを分離源とした新規な細菌やラッカーゼ活性を有する細菌の分離について、Avfにおける細菌群集解析の結果、Avfでは細菌の多様性が低下することが明らかになった。そこで、Avf細菌群集の経時的な変動を調べ、その結果から分離源とするAvfに何らかの前処理(あらかじめ土壌に埋設するなど)を加えることを検討したい。
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