植物の主要ポリアミンであるジアミンのプトレシン、トリアミンのスペルミジン、テトラアミンのスペルミン及びサーモスペルミンは、植物の胚発生、細胞分裂、形態形成を含む様々な生理過程に関与する重要分子である。さらに近年では、ポリアミンが様々な環境ストレスに対して耐性を与える機能分子であることも着目されているが、ポリアミンの作用点や耐性メカニズムに関しては未だ不明な点が多い。そこで本研究では、高温ストレス耐性機構におけるポリアミンの役割を分子レベルで解明し、将来懸念される地球温暖化に伴う農作物収量低下を最小限に抑える技術基盤開発へと貢献することを目的とした。 シロイヌナズナ植物体に高温ストレスを与えると、スペルミン合成酵素遺伝子の強い発現誘導が引き起こると共に、生体内スペルミン量が劇的に増加する。また、スペルミン高蓄積植物体は高温ストレスに対して耐性を示し、低蓄積植物体は感受性を示すことから、スペルミンは植物の高温ストレス低減へ寄与する機能分子であることが示唆された。そこで、より多くのスペルミンを植物体へ蓄積させる技術基盤の確立を目指し、生体内ポリアミン量を負に制御する主要因子であるポリアミン酸化酵素に着目した。シロイヌナズナ植物体には5種類のポリアミン酸化酵素遺伝子群が存在する。そこで、それぞれの機能を理解するため、遺伝子発現量、組織発現部位の観察や基質特異性に関する検討を行い、スペルミン分解に関わるポリアミン酸化酵素を同定した。
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