研究概要 |
シリコン表面の酸化膜(SiO_2,シリカ)に強く結合するタンパク質Si-tagのシリカ結合領域は、溶液中で特定の立体構造を持たない天然変性領域であることが示唆されていた。シリカ結合領域であるN末端60残基に相当するペプチドと、C末端70残基に相当するペプチドを調製し、シリカ結合前後における二次構造含有量を円二色性スペクトル測定により解析した。いずれのペプチドも単独ではランダムコイルに特徴的なスペクトルを示したが、シリカ粒子添加後はランダムコイルの割合が低下したことから、いずれのペプチドについてもシリカ結合に伴い天然変性領域の構造変化が起こり、ポリペプチド鎖が折り畳まれることを確認した。一般的な球状タンパク質が固体表面に吸着した場合には、固体表面との相互作用に伴う立体構造の変性(折り畳まれたポリペプチド鎖からランダムコイル状への変化)が生じることが報告されているが、Si-tagのシリカ結合領域はそれとは逆の挙動を示したことになる。これらの領域を細分化した20残基のペプチド(11種類)にそれぞれプロテインAを融合したタンパク質を調製し、そのシリカ結合能を水晶発振子マイクロバランス(QCM)法で評価したところ、明確なシリカ結合領域というものは見出せなかった。これらの結果から、シリカとの結合には特定の結合部位が単独で機能しているのではなく、柔軟な天然変性ポリペプチド鎖が長い領域に渡って協奏的に働いている可能性が示唆された。
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