研究概要 |
シリコン表面の酸化膜(SiO_2,シリカ)に強く結合するタンパク質Si-tagのシリカ結合領域は、溶液中で特定の立体構造を持たない天然変性領域であることが示唆されていた。前年度の結果から、シリカとの結合には特定の結合部位が単独で機能しているのではなく、柔軟な天然変性ポリペプチド鎖が長い領域に渡って協奏的に働いている可能性が示唆された。光散乱法によるタンパク質分子の粒径測定の結果、Si-tagは同程度の分子量を有する球状タンパク質に比べ粒径が顕著に大きく、ポリペプチド鎖がほどけた天然変性状態であることが支持された。また、アミノ酸配列から予想された通り、Si-tagは中性緩衝液中で正のゼータ電位を示した。一方、シリカ表面は溶液中で負に帯電するため、Si-tagは静電的な相互作用によってシリカ表面に吸着することが強く示唆された。特に、Si-tag中の天然変性領域には正電荷を有するアミノ酸残基が多く存在している。ポリペプチド鎖がほどけているため固体表面との接触面積が大きくなり、より多くの正電荷アミノ酸が固体表面と相互作用することで結合力が強化されていると考えられた。さらに、Si-tagは強力なタンパク質変性剤である尿素(8M)存在下においてもシリカ表面に強く結合することが判明した。一般的な球状タンパク質は変性剤存在では立体構造が崩壊し活性を失うのに対し、Si-tagはもともと変性したような(=天然変性)状態であるため、変性剤の有無にかかわらずシリカ結合能を発揮できると考えられた。また、Si-tag以外にもシリカ結合能を有する天然変性タンパク質が存在することを発見した。これらの結果は、天然変性タンパク質が無機固体表面に対する接着分子として有用であることを示唆するものであった。
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