本研究の目的は、グリチルリチンに代表にされるトリテルペノイド化合物の生合成酵素遺伝子、なかでもトリテルペノイド化合物の構造多様化への寄与が大きいシトクロームP450酸化酵素に注目し、その探索と機能解析を行うこと、さらに、トリテルペノイド生合成関連遺伝子を導入した組換え酵母を作出し、植物体中にはごく微量にしか存在しない、あるいは非天然型のトリテルペノイドを生産しようとするものである。研究代表者らのこれまでの研究から、マメ科の薬用植物であるカンゾウにおいては少なくとも3つの異なるファミリー(CYP88、CYP72、およびCYP93ファミリー)に属するP450酸化酵素がトリテルペン骨格であるβ-amyrinのそれぞれ異なる位置を酸化することが明らかとなった。 そこで、今年度はさらにトリテルペノイド生合成に関わる新たなP450分子種の探索と機能解析を行った。モデルマメ科植物であるタルウマゴヤシの公開大規模遺伝子発現データに基づく遺伝子共発現解析により、β-amyrin合成酵素遺伝子に対して高い共発現係数を示すCYP716A12を見出した。β-amyrin生産酵母を用いた酵素機能解析を行った結果、CYP716A12はβ-amyrinの28位を酸化しオレアノール酸を生成する活性を有することが判明した。CYP716A12はさらに、別のトリテルペン骨格であるルペオールおよびα-amyrinに対しても酸化活性を示し、それぞれベツリン酸、およびウルソール酸を生成することが判明した。また、複数の植物種からCYP716A12に対して高い相同性を示すP450を単離し、活性を調べたところ、CYP716A12と同様のトリテルペン酸化活性を有することが判明した。さらに、β-amyrin合成酵素、CYP716A12、およびCYP93E2を同時発現する組換え酵母が植物体中においてはレアなトリテルペノイドを生産しうることを明らかにした。
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