有機合成化学の分野では、近年様々な方法論の発展により、数多くの有用な反応が開発されている。しかし、試薬が高価であることが間題となったり環境汚染が懸念されているのも事実である。そこで申請者は効率的合成という観点に立ち返り、極めて複雑な構造を有するアザジラクチンという強力な摂食阻害物質の簡便な合成法の確立を目指すこととした。 これまでのアザジラクチンの全合成例は2007年のLeyらによる報告1例のみであるが、左右両ユニットの合成に非常に多くの工程数を要していた。それに対し、申請者はこれまでに左側ユニットを17工程、右側ユニットを15工程という非常に短い工程数で調製することに成功しており、今年度は、最終段階近くの官能基変換の検討を行った。その中で、右側ユニットのジオール部分の保護基に用いていたアセトニドの脱保護が困難であり、保護基として適さないことが分かった。そこで保護基をアセトニドからp-メトキシベンジリデンアセタールへと変換することとした。実際に種々検討した結果、途中の基質において保護基の掛け替えを行うことができ、p-メトキシベンジリデンアセタールとして保護した状態で、右側ユニットの調製を完了した。現在は、全合成に向けて、両ユニットを用いて左右ユニットのカップリングの検討およびさらなる官能基変換の検討を行っているところである。全合成完了後には、天然物とは立体化学の異なる水酸基の効果を足がかりとした構造活性相関研究を行う予定である。
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