生物活性を有する天然有機化合物を効率的に合成することは、試料の大量供給を可能とし、構造活性相関研究に寄与するだけでなく、有機合成においては有用な合成法の開発そのものが大きな功績となりうる。したがって、申請者は「効率的合成」を念頭に、強力な昆虫摂食阻害活性を有するアザジラクチンおよび、新規ジテルペンアルカロイドであるカモブツシンAの合成研究を行った。 アザジラクチンは昆虫に対する強力な摂食阻害活性を有する一方で、ほ乳類には毒性を示さないことが報告されており、優れた農薬の候補として期待されている。アザジラクチンの合成研究に関しては、昨年度の研究において、右側ユニットのジオールの保護基をアセトナイドからp-メトキシベンジリデンアセタールへと掛け替えを行った。今年度は本基質を用いて実験を進めたところ、左右ユニットのカップリングおよび鍵反応であるタンデム型ラジカル環化反応に成功し、アザジラクチンの全炭素骨格を有する化合物の合成を完了した。 カモブツシンAはヒノキ科の植物から単離された新規ジテルペンアルカロイドであり、抗がん活性などの新たな生物活性が期待されている。カモブツシンAの合成研究においては、β-シクロシトラールを出発原料としてその基本骨格を構築した。さらに、ユニークな構造をしている含窒素5員環部分は、生合成仮説に基づき分子内アザマイケル付加反応を鍵反応として構築した。既知化合物より全13工程、総収率5.3%でカモブツシンAの初の全合成を達成した。
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