細菌は化学シグナルを介して同種の菌密度を感知し協調的に行動パターンを変化させる。このメカニズムはクオラムセンシング(QS)と呼ばれ、グラム陰性菌ではアシルホモセリンラクトン(AHL)がその化学シグナルとして利用されている。最近の研究から、高等植物の多くが根よりAHL様物質(AHLミミック)を分泌し、根圏細菌のQSを積極的に促進していることが明らかになってきた。これは新たな植物-細菌間の相互作用として非常に注目され、本物質の化学構造の解明が熱望されているが、未だ明らかになっていない。そこで本申請課題では、根分泌物からAHLミミックを単離・構造決定し、化学合成法の確立を行う。アルファルを水耕栽培して、およそ5000L分の根分泌物を採集した。それを活性炭に通して脂溶性成分を回収した後、各種クロマトグラフィーとHPLCにより活性物質を単離することに成功した。極めて微量であったため、NMRスペクトルを測定しても有益な情報を得ることができなかった。そこでLC/MS/MSを用いて、活性物質を分析したところある低分子有機化合物であることが示唆された。構造確認のため、標品を化学合成したところ、精製操作での挙動と一致したため、構造は間違っていないことを確認した。現在、本物質がこれまでに報告されているAHLミミックであるのか否かの検証を進めている。
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