研究概要 |
寄生虫は嫌気的環境で生育するためにほ乳類とは異なるエネルギー代謝系を用いている。本研究はその一つであるミトコンドリア電子伝達系NADH-フマル酸還元酵素(以後NFRDと略)を選択的に阻害する化合物を微生物二次代謝産物から取得することを目的としている。今年度は微生物培養液のスクリーニングを重点的に行った。ブタ回虫体壁筋から調製したNFRDを用いて、海洋由来放線菌・糸状菌培養液を約2,000サンプル、土壌由来糸状菌培養液を約2,200サンプル、外部共同研究機関より提供された糸状菌.放線菌培養液約1,000サンプルをスクリーニングした。その結果、約1%のサンプルが選択的にNFRDを阻害することがわかった。特に強く酵素を阻害するものから順次、小スケール分画を行い活性物質の極性を調べたところ、微生物の種を問わず多くのサンプルで高極性(水溶性)画分に活性が見出された。現在、この原因について調査中である。低極性画分に活性を確認できた糸状菌4株および放線菌1株の培養液については培養条件の最適化とスケールアップを行い、活性化合物の精製を進めた。このうち放線菌の培養液からpiericidinA_1と(4E)-5-(2-methylphenyl)-4-pentenoic acidを単離し、後者はNFRDに対しより選択的な阻害活性があることを確認した。この結果より糸状菌だけでなく、放線菌もNFRD選択的な阻害活性物質を生産していることが明らかとなった。来年度は本結果を受けて、放線菌および細菌培養液サンプルのスクリーニングと、水溶性活性物質の単離を主軸として研究を進める。
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