ブラシノステロイド(BR)は植物の伸長生長に必須のステロイドホルモンである。その中でもブラシノライド(BL)は高い活性をもつ天然の活性型BRである。BLはコムギやイネなどの穀物に対する顕著な増収効果があり、また、花粉や種子などの生殖器官に多く含まれることも知られている。それらのことからBLが生殖器官の発達に重要な役割を果たしていることは明らかであるが、その分子メカニズムの解明は進んでいない。本研究では、申請者が明らかにしたBL合成酵素に注目し、重要作物の種実生産におけるBLの役割の解明を試みている。さらに、BL合成酵素が系統発生的にどのように進化してきたのかについても追究している。本年度は、イネおよびトマトにおいてBL合成酵素遺伝子を過剰発現させ、BLを過剰に合成させることにより、種実肥大などが起きるかについて追求した。トマトのBL合成酵素CYP85A3伝子を導入したイネにおいて、葉身が顕著に屈曲した形質転換体が得られた。それらについて内生BR分析を行ったところ、実際にBLを過剰に生産していることが確認された。これまで、BLを生産しているイネは発見されていなかったが、当該形質転換体の種子形成に影響は見られなかった。関連する研究として、イネからBR依存的に葉身屈曲を制御する新しい遺伝子を同定した。また、トマトについてはBR欠損変異体dに対してCYP85A3遺伝子過剰発現体を作出した。背丈の低いd変異体はBL過剰生産によりその生長が回復したが、果実が肥大することはなかった。しかしながら、果実においてBLが過剰生産されているかどうかはまだ確認していない。系統発生的な研究に関しては、進化基部に位置しており、BR合成酵素遺伝子が保存されていないコケやシダが種子植物と同様なBRを生産していることを明らかにした。
|