ブラシノステロイド(BR)は植物の伸長生長に必須のステロイドホルモンである。その中でもブラシノライド(BL)は高い活性をもつ天然の活性型BRである。BLはイネなどの穀物に対する顕著な増収効果があり、また、花粉や種子などの生殖器官に多く含まれることも知られている。それらのことからBLが生殖器官の発達に重要な役割を果たしていることは明らかであるが、その分子メカニズムの解明は進んでいない。さらに、BRによる増収効果は不良環境下における耐ストレス作用にも起因していることも考えられているが、その分子メカニズムも解明されていない。本研究では、申請者が明らかにしたBL合成酵素に注目し、重要作物の種実生産におけるBLの役割の解明を試みている。さらに、BL合成酵素が系統発生的にどのように進化してきたのかについても追究している。昨年度に引き続き、トマトにおいてBL合成酵素遺伝子を過剰発現させた形質転換ラインの観察を行ったが、生殖器官における影響は観察されなかった。そこで、得られたBL過剰生産体トマトは非形質転換体に比べて茎葉の成長は早いことから、栄養成長期におけるBL過剰生産の効果を調べることにした。具体的には、BRは様々な生育環境におけるストレスに対して耐性を付与することが知られているので、本年度はまず塩耐性がBL過剰生産体で上がっているか調べた。その結果、予想に反してBL過剰生産体は非形質転換体と比較して塩に弱い傾向を示すことがわかった。これは、BLに引き起こされた過剰な細胞伸長が原因で、浸透圧ストレスに対して弱くなったためかもしれない。また、本年度はBL合成酵素に相同なトウモロコシの酵素を酵母において発現させ、その機能を調べたが、イネと同様にトウモロコシの酵素にはBL合成能はないことがわかった。このことから、理由は不明だが、イネ科植物は進化の段階でBLを合成することをやめてしまったと思われる。
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