研究概要 |
メタボリックシンドローム(MS)における全身の慢性的炎症状態は、消化管バリア機能の低下に起因することが提案されているが、その詳細は明らかではない。本年度は、食餌誘導性MSモデル(高脂肪食摂取)に、遺伝的MSモデル(OLETFラット、対照ラットLETO)を組み合わせ、MSにおける消化管バリア機能の変化、およびその要因を探索した。方法として、LETOおよびOLETFラットに標準食、あるいは高脂肪食を16週間摂取させ、消化管バリア機能の解析を実施した(2x2=4群)。OLETFラットは、対照のLETOラットに比べて、顕著な肥満を呈した。高脂肪食の摂取も、両ラット系統において体重増加を誘導した。両ラット系統において、高脂肪食の摂取は消化管バリア機能の低下を誘導し、それは小腸のタイトジャンクション(TJ)タンパク質Occlduin, Claudin-1, Claudin-3, JAM-1の発現量の低下と相関した(大腸での差異は認められなかった)。一方、標準食を摂取したOLETFラットの消化管バリア機能は、対照LETOラット(標準食群)と同程度であり、消化管TJタンパク質発現量(小腸、大腸)にも系統間の差異は認められなかった。これら結果は、蛍光免疫染色法によっても確認された。また高脂肪食摂取は、血液中の総胆汁酸濃度を上昇させ、消化管内への胆汁分泌が上昇していることを示唆していた。総括すると、MSでは大腸ではなく、小腸においてバリア機能低下が認められ、それは肥満自体ではなく、消化管内に流入する脂質の増加、それによる胆汁流入量の増加に起因することが示唆された。すなわち、過剰な脂質、胆汁が小腸上皮細胞のTJタンパク質の発現量を低下させ、小腸の透過性を高めていることが推測された。今年度は、MSの新たな病態を明確にできたとともに、それを軽減させる手段を探索するための重要な知見が得られた。来年度は、過剰な脂質や胆汁が小腸バリア機能を低下させるエビデンスの獲得、これら症状を軽減することができる機能性食品の探索に展開する。
|