メタボリックシンドローム(MS)における全身の慢性的炎症状態は、消化管バリア機能の低下に起因することが提案されているが、その詳細は明らかではない。先年度、遺伝的肥満ラット(OLETF)と高脂肪食給餌を組み合わせて、消化管バリア機能への影響を解析したところ、過剰な脂質や胆汁が小腸バリア機能を低下させる要因であることが明らかとなった。そこで今年度は、ヒト消化管上皮細胞Caco-2を用い、過剰な食餌性脂質、胆汁による消化管バリア機能への直接的影響を解析した。方法として、Caco-2細胞を2層式のTranswellシステムに培養し、その刷子縁膜側から脂質エマルジョン(0.1-1.0%大豆油、Intralipid;テルモ)、胆汁(2.5-20%)を作用させた。胆汁は、高脂肪食を摂取させたラットの胆管から採取した。消化管バリア機能の評価として、透過性の指標である経上皮電気抵抗値(TER)、Lucifer yellow (LY)透過速度を測定し、またlmmunoblot法により各種タイトジャンクション(TJ)タンパク質発現量を解析した。結果として、ラット胆汁と過剰な脂質は、それぞれ濃度依存的にLY透過速度の上昇、TER上昇の低下を引き起こし、消化管バリア機能を低下させた。 また、それらの相加効果も認められた。このとき、Occludinを除く、TJタンパク質(Claudin-1、Claucin-3、JAM-1)の発現量の低下が認められた。これら結果は、MSにおいて、高脂肪摂取による管腔内食事脂質、胆汁濃度の上昇が消化管(特に小腸)の透過性を上昇させる一因であることを提案している。本研究成果は、MSの新たな病態を明確にできたとともに、消化管バリア機能に着目した、新たなMS予防食品成分の可能性を提案するものである。
|