日本人の糖尿病の90%以上を占める2型糖尿病の発症には、インスリン抵抗性とインスリン分泌低下が関わる。インスリン抵抗性は、肥満のみならず加齢に伴い増加する。一方、インスリンは、亜鉛の存在下で六量体を形成する。インスリン顆粒へ亜鉛を取り込む亜鉛トランスポーターを欠損させたマウスでは、インスリン分泌の低下が認められている。したがって、日常的な亜鉛摂取が糖尿病の病態を改善する可能性も期待できるが、亜鉛摂取が加齢に伴うインスリン抵抗性やインスリン分泌に及ぼす効果についての詳細な検討はほとんどない。本研究では、加齢に伴うインスリン抵抗性やインスリン分泌について、亜鉛摂取による効果を解析するため、非肥満2型糖尿病モデルGKラットと高脂肪食給餌ラットを用いて検討した。<実験1>若齢期からの亜鉛摂取が高脂肪食給餌SDラットのインスリン抵抗性とインスリン分泌に及ぼす影響:5週齢の雄性SDラットに5週間、高脂肪(脂質25%)の亜鉛欠乏食、低亜鉛食、亜鉛添加食、亜鉛強化食を給餌した。亜鉛欠乏食群の血漿インスリン濃度は、亜鉛添加食群、亜鉛強化食群に比べて有意に低値を示した。また、亜鉛欠乏食群と低亜鉛食群で、血漿インスリン濃度と血漿亜鉛濃度に強い正の相関が認められ、亜鉛摂取量の低下によりインスリン分泌が低下した可能性が示された。〈実験2〉若齢期からの亜鉛摂取が高脂肪食給餌GKラットのインスリン抵抗性とインスリン分泌に及ぼす影響:5週齢の雄性GKラットに12週間、高脂肪(脂質25%)の低亜鉛食、亜鉛強化食を給餌した。飼育5週後の糖負荷試験で、亜鉛強化食群の糖負荷後120分血漿インスリン濃度は低亜鉛食群に比べて有意に高値を示し、亜鉛強化は亜鉛摂取不足に比べてインスリン分泌低下を改善する可能性が示唆された。〈実験3〉成熟期からの亜鉛摂取強化がGKラットのインスリン分泌に及ぼす影響:10週齢の雄性GKラットに28週間、亜鉛欠乏食、亜鉛添加食、亜鉛強化食を給餌した。亜鉛欠乏食群の血漿インスリン濃度は、亜鉛強化食群に比べて有意に低値を示した。飼育22週目の空腹時血糖値は、亜鉛強化食群でペアフェド群に比べ有意に低下した。したがって、長期間の亜鉛強化は、2型糖尿病モデルGKラットの空腹時血糖値を改善する可能性が示された。
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